98地ビール事情
 (「日本農業新聞」掲載 / ビア・ジャーナリスト ビアテイスター 中山恵子)


解禁から4年(98 11/24掲載)

 地ビールが珍しくなくなった。市町村で少し大きな祭りが開催されれば、そこには必ず何がしかの地ビールが出店している。観光地に出向けば、そこにも地ビールがある。「地ビール」という言葉は完全に市民権を得た感がある。 しかし、「地ビールとは何なのか」と問われると、案外答えられる人は少ないのではないだろうか。

開業200カ所

 1994年、ビールを醸造するための免許取得に必要な年間最低製造量が、2000キロリットルから60キロリットルまで引き下げられた。大瓶に換算して約316万本から9万5000本へという大幅な引き下げは、細川政権の規制緩和の目玉として注目を浴びた。これによって小規模ビール醸造が可能となり、誕生したのが「地ビール」である。

 60キロリットルという線引きについては賛否両論があったが、日本地ビール協会(兵庫県芦屋市)の小田良司会長によると「億単位の設備投資が必要な以上、最低この程度さばけなければ経営は成り立たない。が、これ以上多いと参入しにくい。60キロリットルという数字は妥当なラインだった」という。

 翌2月、新潟・巻町に全国第一号地ビール「エチゴビール」(上原酒造 上原誠一郎社長)が開業する。年末までに20社が本免許を取得し、1995年は「地ビール元年」と謳われた。

 製造免許取得者数は表に示した(表は省略)が、96年は前年の約4倍、97年は2.5倍になり、一挙に200カ所近くまで増加しているのが分かる。

 解禁以前、地ビールは“=土地のビール”ということで、町おこしの起爆剤として語られることが少なくなかったが、フタを開けてみると清酒をはじめとする酒造メーカーからの参入が多く、全体の約25%を占めている。 残り75%についてはホテル・レジャー、食品加工・外食、酒類販売、建設関連、地域の有志など、ありとあらゆる業種が推進母体となっている。第三セクターからの参入もあるが、全体から見ると当初予想されていたほどではない。

 年間製造量は1カ所平均100〜120キロリットル。昨年はビールの全消費量の0.5%を占めた(日本地ビール協会調べ)。今年の推定は0.8%。1%も目前である。 しかし、経済不況の中、ひとり気炎を上げていると羨まれたた地ビールも、醸造所数の伸び率を見てみると、今年、突然頭打ちになったような印象を受ける。

安定の兆し 

 今年の免許取得者数は1月から順に4、5、15、8、5で、6月は10。しかし、本来最も多くなるはずの7月は3場、8月はわずか1場しか開業していない。

 その点について、小田会長は「遅くても9カ月前から参入の準備を始めるが、昨年秋頃から、開業資金を自己資金で賄わなくてはならないような経済状況になってきたため」と分析する。

 今しばらく開業者数は伸び悩み、さらに設備が小さく、免許取得に必要な最低年間製造量が6キロリットルの発泡酒免許で開業するところが増える可能性があるという。

 しかし、この時期はそれほど長くは続かないとも。「その間に発泡酒の特性を活かしたバラエティに富んだビールが生まれる。しかし、開業資金を自己調達しなければならない期間は長くはない。2000年をめどに再びビール免許での開業、発泡酒からビールへの転業が急増するはず」。 地ビール春・夏の時代を経て、今、秋から冬の時代。が、厳冬が予想される中、地ビール業界に限っては比較的暖冬に見えるのは気のせいだろうか。


地元を離れる−個性売り物に全国展開(98 11/25掲載)

  1994年まで存在しなかった「地ビール」という日本語。このネーミングには「土地でしか飲めない」というニュアンスが含まれていた。

 地ビールというモノが登場した時、まさにそれこそが付加価値だった。

 地ビールは高いと言われるが、1リットルあたり222円の酒税がかけられる日本では小規模生産であるほど利益は限られる。しかも、設備投資には莫大な金額がかかるのだ。

 1時間待ちもざらだった95年夏の地ビールレストラン。今も夏はビールの製造が追いつかなくなる店もある。しかし、平均客単価は3000円弱、うちビールの売上げは1000円前後−−。これでは地ビールといえど地元を離れ、旅に出ざるを得なくなる。

販路広がる 

 「レストランでしか飲めない」はずの地ビールが瓶詰めされるようになるまでにそう時間はかからなかった。現在、大抵の地ビールが電話で取り寄せられる。

 飲食店に醸造設備が併設されているところを“ブルーパブ”あるいは“ブルワリーレストラン”と呼ぶのに対して、飲食店を持たずにビン、缶、またはタルで流通に乗せる小規模醸造所をマイクロブルワリーと分類する。

 その草分けが「独歩ビール」をつくる宮下酒造(岡山県岡山市・宮下附一竜代表社員)だ。他社がレストランに資金を投入する中、イタリア製のビン詰め機械などを導入し、九五年五月に初仕込みをした。

 97年は年産650キロリットルを製造。今年は若干落ち込んで500キロリットル前後になる見込みだが、北海道から沖縄まで47都道府県すべてに流通している。

 先行の「独歩ビール」が販路を拡大していく中、96年から徐々にマイクロブルワリーが増え始める。97年後半になると「地ビールの全国展開」あるいは「首都圏展開」を視野に入れた動きが出始めた。

 銀河高原ビール(本社/東京・銀座 中村功社長)はその最大手で、将来的には全国シェアの1%を獲得すると公言する。

 岩手県沢内村、岐阜県高山市、熊本県熊本市に工場を持ち、来年1月からは栃木県の那須工場も操業する予定。3工場を合わせた今年の年間総製造量は1万キロリットルになる見通しだという。工場に併設したレストラン以外に直営5店、FC18店のレストランも展開している。

 同社は「銀河高原ビールは地ビールではない」とも断言する。「沢内村で村おこしの一環としてスタートしたが、現在は大手ビールと地ビールの中間の中堅ビールメーカーとして全国展開を実施している」と。

 その後を追うのは長野県軽井沢町のヤッホー・ブルーイング(星野佳路社長)。主力商品の「よなよなエール」は97年6月、地ビールとしては初めて350ミリットル缶のみで発売された。

設備を増強

 現在、近県を中心に首都圏展開しているが、醸造設備を年産2000キロリットルから4500キロリットルにまで増強し、全国展開を目指している。

 2000キロリットルという規制緩和以前の年間最低製造量を超えるわけだが、「醸造規模に関わらず、味にオリジナリティのあるビールが地ビールだと理解している」(広報・武藤紀恵さん)という。

 今、地ビールは地元を離れて旅をする。しかし、その背景はひとつではない。“より大きく、より遠くまで”を積極的に推進していく醸造所と、「ここに来なければ飲めない」の看板を降ろさざるを得ない醸造所。一方、消費者はビールを選ぶ楽しさを手に入れた。


原料は地場産−農業との関係一層密に(98 11/26掲載)

 小規模醸造のビールに「地ビール」という名がついた時、そこに宿命が生じた。小規模醸造は土地のビールであるべきだという十字架である。 “本場ドイツ”製のプラントを使い、モルトやホップも輸入品。果ては技術指導も外国人。当初、これでどこが地ビールかと揶揄する声も聞かれた。

 しかし、言葉には魂があると昔の人は言ったものだ。今、全国を見渡してみると「地ビール」という言葉がなかったら、ここまでバラエティ豊かにはならなかったのではないかと驚く。

 日本の税制では、定められた原料以外のものをわずかでも加えればビールではなく発泡酒に分類される。免許取得に必要な年間最低製造量がビールのわずか10分の1の6キロリットルであること、設備投資が抑えられることなども参入者にとっては大きな魅力だ。もちろん、ビールと発泡酒の両方をつくっているメーカーも多い。

JAも参入

 サツマイモなどの地ビールを醸造している協同商事(埼玉県川越市)の朝霧幸嘉社長は「特産物を使ってこそ地ビール」の考えを一貫して主張してきた一人だ。

 同社のビールに分類される商品は330ミリリットル250円と低価格だが、発泡酒は同380〜420円と割高になっている。これも「特産品をつくっている農家の方たちを応援したい」との意図からである。

 現在、技術提携した醸造所など十社と連携し、「特産地ビール協会」を設立する準備を進めており、百貨店で販売する贈答品用に各地の特産地ビールセットを作ることや、原料の共同購入などを企画しているという。

 同社がサポートする兵庫県一宮町のJAハリマは、来年6月にビールと発泡酒の両方で参入予定。「別会社をつくらずにJAでやっていく予定」と中尾朝治専務。ここでは丹波黒豆をつかった発泡酒が目玉になる。

 特産物を使った発泡酒を醸造しているメーカーは全国多岐にわたっているが、主なものは次の通りである。
  北海道/日高ビール(りんご)
  北海道/帯広ビール(ビート)
  青森県/寺澤商店(ニンニク、ヒバエキス、グレープ、モモ)
  岩手県/宮守ブロイハウス(ワサビ)
  宮城県/宮城マイクロブルワリー(いちご)
  神奈川県/厚木ビール(シソ、蜂蜜、モモ)
  長野県/信州スザカブルワリー(そば)
  岐阜県/西濃ブルワリー(柿、マタタビ)
  愛媛県/梅錦山川(梅/伊予柑)
  熊本県/有明浪漫麦酒(ナシ)
  鹿児島県/薩摩酒造(サツマイモ)

自給自足へ

 果物や野菜だけではなく、ビールに必須の原料に地元産のものを使っているメーカーもある。

 三重県阿南町の伊賀の里モクモク手づくりファーム(福島正信代表理事)では、ビールのベースとなるモルトの製造にはすべて阿山町の契約農家が栽培した二条大麦を使用している。今年は十八軒の農家が栽培した6f分の大麦を収穫した。

 同様の試みは静岡県函南町の酪農王国(近藤忠市社長)でもスタートしている。地元産大麦を使用するためには製麦工程がハードルになる。地ビールメーカーが製麦所をもつのは規模的には難しい。酪農王国でも全体に占める地元産の割合はまだ十%程度だ。

 また、新潟県黒川村では大麦、ホップのすべてを村内で栽培し、ビールを醸造する計画を進めている。水も村内のわき水。麦芽かすは家畜用飼料に加工する予定である。完成すれば自給自足型の生産体制となる。

 農業と地ビールの関係は、これから本当の密月を迎えていくのかもしれない。


新しい芽−手作り教室や委託生産(98 11/27掲載)

 地ビールの登場によって、“自ビール”まで解禁されたと勘違いをしている方がいるかもしれない。アルコールを無免許でつくれば法律違反。家庭用キットが販売されているが、アルコール度1%未満のものしかつくってはいけない。 では、法律違反をせずに、自分もビールづくりをしたい場合はどうすればいいか。

 カナダ、アメリカで大ヒットしているのが“ブルー・オン・プレミシズ(BOP)”。店内に並ぶ小さな醸造用の釜を使って、スタッフのアドバイスを受けながら、好みのレシピのビールをつくるというものだ。

 そのBOPが日本にお目見えした。今年七月から「湾岸舞浜ビール」を醸造している酒の大手DS河内屋酒販(東京都江戸川区・樋口行雄社長)がスタートさせた地ビール教室がそれだ。

自分で醸造

 約20種類のレシピから好きなタイプを選び、スタッフの説明を受けながら、モルトを挽く、麦汁を濃縮したエキストラクトを煮込む、ホップを入れるなどの仕込み工程をこなす。発酵工程や瓶詰めは店側が行うが、ラベルは好きなようにアレンジできる。1回で出来上がるのはボトル100本で、お値段は3万1200円。

 以前からキリンビール神戸工場で地ビール教室は開催されており、予約待ち状態が続くほどの人気を博しているが、こうしたBOP用の本格的な設備が導入されての開業は日本初。「税務署の認可を得るまでに1年10ヶ月。途中でギブアップしそうになったが、絶対に日本で最初のBOPをうちが開業したかった」と樋口社長。

 米国ホームブルワーズ協会(AHA)によると、カナダでは約300店、アメリカでは約50店のBOPが営業している。AHA日本担当理事でもある日本地ビール協会の小田良司会長は「アメリカではここ2年でBOPが倍増した。日本でも人気に火がつくのは時間の問題」と予想している。

 BOPとは逆に自分でつくらない地ビールも登場し始めている。国際的には「コントラクト・ブルーイング」と分類されるもので、平たくいえばOEM生産の地ビールである。

 積極的にOEM生産を行っているのは、神奈川県厚木市の永興(岩本宏三社長)。自社ブランド「サンクトガーレン」のほかに、県内の酒類卸業・神酒連が販売する「丹沢山渓」、東京都の同じく酒類卸業・小西本店の「丹沢麦酒」、在日アメリカ人が設立した東京ブルーイングの「東京エール」の4ブランドを有する。

多様化進む

 醸造を担当する岩本伸久さんは「うちはダブルプリバックという方式のビン詰め機械を使うことによって、賞味期限を3ヵ月にしているからこそOEMが可能。アメリカではこの機械がないメーカーの商品は流通に耐えないと判断されるほどだが、日本で流通している地ビールは、まだ手詰めに近い方式によるものが多い」と苦言を呈する。
 さて、東京都小平市では、賞味期限たった2週間の地ビールをこの夏見事に売り切った例がある。小平酒販組合が製造委託して販売した「多摩川源流仕込小平麦酒」がそれ。青年部(西海一栄青年部長)が中心となって企画し、「500ミリリットルボトルで、7月2000本、8月3000本、10月に4000本をすべて予約完売した」という大当たり。来年GW開けに再度、挑戦する予定だ。 消費者にビールにも多様な味わいがあるという認識が出来上がりつつある。それとともに市場のニーズは多様化の一途をたどる。地ビール市場、熟成し始めたということか。 


業界再編成−競争から共存の道探る(98 11/28掲載)

  国税庁の発表による九月末現在の地ビールの醸造所の数は235カ所。その後開業したところ、発泡酒の免許のみで醸造しているところを加えると11月現在、約260カ所で、いわゆる地ビールがつくられていると見込まれる。 規制緩和から4年、地ビールも大所帯になりつつあり、ひとつの“業界”としてのカタチを成してきた。当初、メーカー同士の横のつながりは希薄であったが、昨年後半から様子が変わってきた。

 最初にまとまったのは中国地方。昨年9月、初の業界団体「中国地ビール協議会」が発足した。情報交換を目的に、15社が加盟している。会長は宮下酒造の宮下附一竜代表社員。今年2月と6月の2回、会合を持ち、広島の醸造研究所での講演会、キリンビール岡山工場の視察などを行っている。

 続いて、昨年12月には「北海道地ビール連絡協議会」が設立総会を開いた。オホーツクビール(北見市)の水元尚也社長を会長として、イベントの開催のほかに、原料の共同仕入れやボトル、ケグ(タル)などの資材を一部共同で発注する計画も進めている。

共同で企画

 札幌の夏の風物詩となっている大通納涼ガーデンには、北海道地ビール連絡協議会の17社約40銘柄が出展し、特設の「地ビールひろば」が作られた。予想以上の盛況で、開催20日間の販売量は★キロリットルに上ったという。 北海道は9月末現在、発泡酒を含めて24社の地ビール製造業者があり、全国でも断然トップ。

 函館にはそれぞれが5分以内で歩ける範囲に、はこだてビール(柳沢勝社長)、函館麦酒工房(加藤健太郎社長)、OEM生産した「はこだて赤レンガビール」を販売する函館ビアホール(相沢光雄社長)、七飯町の大沼ビールを扱うベイはこだての4軒の地ビールレストランがたつという激戦区が出現している。

 これを逆に「地の利」と捉えたのは相沢社長。「4社合同の企画を」と話をもちかけ、観光ルートとして「はこだてビール街道」を設定した。7月18日〜8月末日の期間に、4店舗で地ビールを飲み、スタンプを押してもらうと記念グラスがもらえるというもの。1000個のグラスを用意し、800個が捌けた。「確かな手応えがあった。さらにユニークな共同企画を考えたい」という。

連携強化へ

 地ビール製造業者らの連携は、今年に入って加速度を増す。

 今年9月には高松国税局からの呼びかけなどもあり、梅錦山川(愛媛県丹原町)の山川浩一郎社長を代表幹事に8社が組んで「四国地ビール協議会」を旗揚げ。 同じく9月にゆふいんビール(大分県湯布院町)の小野正文社長を会長に「南九州協議会」も発足している。さらに10月に入って「北九州協議会」が設立総会を開き、浜地酒造(福岡市西区)の浜地英人社長が会長に就任した。

 さらに、来年早々にも「全国地ビール醸造者協議会」が設立される見込みだ。各地方の協議会と同様に、イベント等によりPRやコスト削減を狙いとする原料の共同仕入れなどをはじめ、容器の統一、品質審査などを柱に参加を呼びかけ、「100社以上が集まったところで正式に発足する」(宮下代表社員)という。

 競争しあって疲弊するより、共存の道を選び始めた地ビール業界。互いの組織力・技術力を向上させ、全体の消費を拡大しこうという一連の動きに、業界の期待は大きい。 



おいしさの評価−審査会でレベルつかむ(98 12/1掲載) 

 ほんの3年前、消費者は例えどんな味の地ビールを飲まされても「これが地ビールというものの味なのか」と納得するしかなかった。

 しかし、最近、消費者は「この地ビールは美味しいけれど、この地ビールはまずい」とはっきりと口にする。地ビールを集めたイベントが全国各地で開催されていることも一因だろう。必然的に「どれが美味しいのか」「どれが飲む価値があるのか」という情報が求められるようになってきた。

ランク付け

 1996年から大阪で開催されている「インターナショナル・ビール・サミット(IBS)」と、今年が第1回目となった「ジャパン・ビア・フェスティバル(GJBF)」いうイベントでは、前者では国内外の、後者では国内ビールの審査会が行われている。

 今年、GJBFには76社から204銘柄、IBSには22カ国67社から182二銘柄が出品され、それぞれ十一部門に分けて金銀銅賞が決められた。

 GJBF、IBSともに入賞を果たしたポッカ・ビア・ワークス(愛知県名古屋市・森永毅社長)醸造部主任の松野光義さんは「自社のビールが日本でどの程度のレベルにあるかは、自分にも消費者にも判断できない。客観的な評価を確認したかった」と説明する。

 GJBFで金賞、IBSで銀賞を受賞したヤッホー・ブルーイング(長野県軽井沢町・星野佳路社長)では、山手線の車内広告や長野県で放映しているテレビのスポット広告で、受賞した旨を入れた。

 また、「営業先で当社の製品が一定レベル以上であることを理解してもらう材料になる」(広報・武藤紀恵さん)と審査会での受賞のメリットを語る。

 前出のポッカ・ビア・ワークスのレストランでは受賞したビールの注文が増え、土産用にボトルを買う人が多かったという。大手スーパーに納品したビールには、受賞を知らせる首ポップもかけた。

 「しかし」と言葉は続く。「確かに受賞は嬉しいが、本当に受賞したビール=消費者が美味しいと思うビールなのか。審査会は専門家と醸造家の自己満足にすぎないのかもしれない」と疑問を投げかける。

特色鮮明に

 それに対し、審査会を主催する日本地ビール協会(兵庫県芦屋市)の小田良司会長は「ビールにはさまざまなスタイル(種類)があり、それぞれに土地と歴史と文化が育んだ特徴をもつ。その特徴がきちんと現れていないビールは、やはり味も美味しいと感じられるラインから外れている」と力説する。 消費者は、いまや250以上もある地ビールの中から選択を迫られる。それは楽しみでもあると同時に、迷いの多い作業でもある。

GJBF金賞受賞の地ビール
  よなよなエール(長野県/ヤッホー・ブルーイング)
  常陸野ネストビール ホワイトエール(茨城県/木内酒造)
  エチゴビール ベルジャンホワイト(新潟県/上原酒造)

IBS金賞受賞の国内ビール
  那須高原ビール スコティッシュエール(栃木県/那須高原ビール)
  スワンレイクビール ポーターおよびアンバースワンエール(新潟県/瓢湖屋敷の杜ブルワリー
  上州森のビール 森の悪魔(群馬県/新進)
  倭王ハクギン(奈良県/ヤマトブルワリー)
  常陸野ネストビール ホワイトエール(茨城県/木内酒造)
  エチゴビール 吟醸ビール(新潟県/上原酒造)
  軽井沢高原ビール ワイルドフォレスト(長野県/ヤッホー・ブルーイング)


評価高い独自スタイル−世界の舞台へ(98 12/2掲載)

 規制緩和のあった1994年、誰が3年半後のこの地ビールラッシュを予想しただろうか。断言してもいい。誰ひとり想像し得なかった。当時は、今世紀中に百に達したら立派なものだと噂されていた。

 地ビールは規制緩和によって引き起こされた“ブーム”だと言われてきた。しかし、本当にそうだろうか。

 日本の地ビールは「本場ドイツのビール」という言葉を掲げているところが多いが、実際には“本場ドイツ”で昔からの地元の人たちに愛されてきた地ビールは、今の日本のような飲まれ方はされていなかった。

 最も大きな違いは、ひとつの地ビールレストラン(ブルーパブ)で、いくつもの異なる種類のビールは飲めなかったという点である。 それこそ、かつての日本の地酒のように、「この土地のビールはこの種類」と決まっていたのである。それはもうひとつのビールの国イギリスでも同様である。

酒酵母使う

 「ビールの神様」とも言われるイギリス在住のビール評論家マイケル・ジャクソン氏は、著書の中で「さまざまな種類のビールを一カ所で飲める」ようになったことを新しい現象としてとらえ、「ニュージェネレーション」と評している。変化はイギリスから始まり、アメリカやカナダに波及していったという。とすれば、その流れの中に日本がある。
 ビールの種類のことを専門的には「ビア・スタイル」という。日本でもさまざまなスタイルのビールがつくられているが、それらはもとを正せば、ドイツやイギリスやベルギーで生まれたビールである。日本固有の農産物を使ったビールも世界的には、ハーブやベジタブル、フルーツビールというスタイルに分けられる。

 しかし、日本発祥のスタイルに成り得るものもたったひとつだけ存在する。酒の酵母を使ったビールだ。把握しうる限りでは、現在、黄桜酒造と上原酒造で醸造されている。

 前述のジャクソン氏も、著書の中で、日本で飲んだ興味深いビールとして取り上げている。 世界で最も大きなビールの審査会に米国ブルワーズ協会(AOB)が主催する「ワールド・ビアカップ」がある。2年に1度開催され、1996年は上原酒造(新潟県)がブロンズメダルを受賞した。

 そして、今年は20ヵ国から280社836銘柄のビールが出品された。AOBによると日本からの出品は11社40銘柄。その中から、アサヒビール、サッポロビールとともに、伊賀の里モクモク手づくりファーム(三重県)、木内酒造(茨城県)、熊澤酒造(神奈川県)、セイコー(福島県)、千代むすびアンド足統ビール(鳥取県)の5社9銘柄が入賞した。

深まる認識

 AOBのチャーリー・パパジアン会長は「酒の酵母を使ったビールは大変ユニークで、スタイルとして確立される要素を持っている。しかし、それは酒酵母ビールが商業的にどれだけ成功するか、さらに世界中でどれだけの地ビールメーカーが真似ようとするかにかかっている」と言う。

 日本の地ビールについては「受賞した日本のビールはそれぞれ異なったスタイルだった。それは日本でスタイルについての認識が深まり、専門的なビールがつくられ始めた結果だと思う」と評価している。

 地ビールの名のもとに甘えられている時代ではないと言われる。それは確かだ。しかし、その中で、世界に通用する地ビールがあるとしたらどうだろう。それを飲んでみたいと思う消費者が少ないわけがない。それに対し、審査会を主催する日本地ビール協会(兵庫県芦屋市)の小田良司会長は「ビールにはさまざまなスタイル(種類)があり、それぞれに土地と歴史と文化が育んだ特徴をもつ。その特徴がきちんと現れていないビールは、やはり味も美味しいと感じられるラインから外れている」と力説する。

 消費者は、いまや二百五十以上もある地ビールの中から選択を迫られる。それは楽しみでもあると同時に、迷いの多い作業でもある。


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