ジャパン・ビアカップ2002 審査講評

   

“ジャパン・ビアカップ 2002” 審査委員長 田村功 
    
 去る4月 21日に“ジャパン・ビア・カップ 2002”の審査が行われた。今回のエントリー数は46社121銘柄と前年の7割強にとどまり、一昨年並みの状況に戻った。この長引く経済不況の中ではいたしかたのないことであるが、そこをあえて出品してくださった地ビールメーカー各社には、審査委員長として心から感謝の意を表したい。

 日本地ビール協会が主催するこのビア・コンペティションも、今年で5回目になる。審査を終えた印象は、この不況下にもかかわらず地ビールの品質が絶えず向上し続けているということである。これも、5年間継続して審査しているからこそ言えることであろう。

 実は、この4月9、10日の両日、アメリカのクリーヴランド市で“ワールド・ビア・カップ 2002”の審査会があった。そこでのジャッジを終えて帰国した直後に“ジャパン・ビア・カップ 2002”の審査に臨んだため、両方にエントリーされたビールのトータルな出来栄えについてかなり正確に比較できるまたとない機会となった。その結果、日本の地ビールは「すでに欧米のクラフトビール並みのレベルに達している」との確信を持つことができた。日本で今回の審査テーブルに乗ったビールは、アメリカでファイナル・ラウンドのテーブルに勝ち進んだビールとほぼ同等の出来栄えであると断言できる。

 今回の“ジャパン・ビア・カップ ”には出来栄えに自信のあるメーカーだけがエントリーして激しく覇を競った感もあるので即断は危険かもしれないが、日本の地ビールは国際的に見てそうとう高いレベルにボトムアップされてきていると見て、まず間違いあるまい。

 さて、カテゴリーごとの講評であるが、まず「スモーク/酒イースト・ビール」部門、とくに「酒イースト・ビール」が強く印象に残った。この「酒イースト・ビール」は現在のところ「日本発祥」を唱えることができる唯一のスタイルであるため、日本地ビール協会の働きかけにより“ワールド・ビア・カップ”の審査カテゴリーにも加えられている。しかし、エントリーが極端に少なかったため今年の“ワールド・ビア・カップ”では単独の審査に至らず、残念ながらその他の部門で審査された。“ジャパン・ビア・カップ”でもエントリーが少ないことは同様である。にもかかわらず、審査を終えて印象に残っている理由は、今回になって初めて「日本酒の呪縛」から解放された酒イースト・ビールが出品されたからである。これまでも、このスタイルを表示したビールはいくつかあった。しかし、いずれも「日本酒」のイメージを強く引きずっていて、どっちつかずであったことは否めない。それが、今回は原料に赤米を使用することで日本酒を感じさせない独特の存在感を持つビールが出てきたのである。この研究心と努力は大いに評価されてよい。

 昨年はちょっと元気のなかった「ヴァイスビール部門」については、今回は百花撩乱とでも言うべきほどの粒揃いであった。それだけに3賞を選ぶのに審査員たちは困難な決断を求められたが、同時に楽しさを堪能した部門でもあった。ヴァイツェン・ビールは地ビールを代表するスタイルの一つであるだけに、これが頑張っていることは大変心強い。

 大手メーカーの発泡酒が売れている時代であるが、これに対抗して地ビールの意地を見せてくれたのが「ジャーマン・ライトラガー」「アメリカン・エール」「アメリカン・ラガー」などの部門である。クセがなく飲みやすいビールという基本をしっかり守りながら、大手ビールや発泡酒にない豊かな風味をも造り込んでいる。そうした努力の跡はこの部門で3賞に選ばれなかったビールにも共通して見られた。

 「イングリッシュ・ライトエール」「イングリッシュ・ダークエール」部門では、これまで入賞していたペールエールやポーターなどのポピュラーなビールが選に漏れた。ヴァイツェンと並んで地ビール愛好者から高い支持を得ているスタイルだけに、これは寂しい。今後の大いに奮起を期待したい。

 今年4月末現在での発泡酒を含む地ビール醸造所の免許累計は340カ所に達した。内、撤退もしくは休業したところがこれまでに51カ所あるので、289カ所が稼動を続けていることになる。一時の地ビール・ブームは確かに去ったが、地ビールに対する本当の愛好者が根強く育っている。地ビールの愛好者を着実に増やすには、「美味しいビール」を造る努力を置いてほかにあるまい。そうした努力を顕彰することが、この“ジャパン・ビア・カップ”の使命であることをこの機会に改めて強調して、審査講評を終わりたい。

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