平成11年6月21日

ビア・コンペティション「ジャパンカップ'99」審査総評

                                  審査委員長 田村功


 「ジャパンカップ」は、市販されているビールの中から品質優秀なビールを選びだし、それらを顕彰することによって地ビールの品質向上に寄与しようとするものである。コンペティションであるから、審査の対象となるビールは、むろんエントリーされたものに限られるが、けっしてこのために特別につくられたビールではなく普段売られているものばかりである。審査の方法は完全なブラインド・テイスティング方式による。審査を行うジャッジとオブザーバーにはメーカー名も銘柄も伏せ、エントリー・ナンバーと審査されるスタイル名のみが知らされる。選考のポイントは、1.スタイル基準に合致し、2.オフフレーバーのレベルが許容範囲内にあり、3.香り・味・外見のバランスが優れていることの3点。これらの条件をクリアしたビールの中から、ゴールド、シルバー、ブロンズの3賞に値するものを討論によって選び出すわけである。
 
 今年の「ジャパンカップ'99」を終えた印象は、昨年と比較してエントリーされたビールの品質が著しく向上していることである。とくにスタイル基準とオフフレーバーに関しては、昨年と比べ格段の進歩が見られた。昨年は、スタイル基準から外れているものとオフフレーバーのレベルの高いものを除くと、ごく少数のビールしか残らないという状態であった。しかし、今年はまったく違った。ペールエールでエントリーされたが色が濃すぎて落とされたり、デュンケルでエントリーされたがホップフレーバーと苦味が強くて落とされたというビールが、今年は大幅に減少した。
 
 こうした昨年との違いは審査の開始時点ですでに感じられ、「これは侮れない」「心してかからねば」という緊張感が一瞬にしてジャッジの間にみなぎったほどである。オフフレーバーについても、アセトアルデヒドや硫化水素のレベルの高いビールがほとんど影を潜めた。ダイアセチル、DMS、アストリンジェントなどについても、昨年は許容範囲を遥かに超えるものが多かったが、今年は適正レベルにおさまっているかどうかジャッジの間で議論しなければ当否が決められないほどに改善されている。それゆえ11カテゴリー中9カテゴリーにおいて、どれを落としてどれを入賞とするかの選択が容易ではなく、討論に予想以上の時間が掛かってしまった。中にはゴールドメダルやシルバーメダル候補に2つのビールがあがり、両方に同じ賞を与えてはどうかとの意見もでたが、これは「1賞につき1ビール」というポリシーがあるため見送られた。その結果、一方がワンランク下がり、順下がりでブロンズメダルの候補になっていたビールが入賞を逸するという不運なケースも2、3にとどまらなかった。

 このように今年の「ジャパンカップ'99」は、熾烈な闘いであったといっても過言ではない。入賞の決め手となったのは、「感動」の一言である。ジャッジ全員が感動するするほど素晴しい味わいをつくりだしたビールが、見事にメダルに輝いた。ジャッジの一人として参加してくれたマイケル・ジャクソンは、審査を終えた直後、「世界基準に達している地ビールが大変多くなり、逆に問題のあるビールが非常に少なくなったのには驚いた」と語ってくれた。過去1年、どの地ビールメーカーも不況の中で(いや不況だからこそ)技術を練磨し品質向上に努めてきた成果が、今回の「ジャパンカップ'99」にはっきりと現われていると断言できよう。ここまで地ビール全体の技術レベルが向上すると、これからは「感動を呼ぶビール」かどうか、「主張のあるビール」かどうかが、ますます重要な評価ポイントになることは間違いない。この秋に大阪で行われる「インターナショナル・ビア・サミット99」でのコンペティションで、どれだけたくさんの「感動を呼ぶビール」が見られるか楽しみである。
 
 最後に、「ジャパンカップ'99」にエントリーされたメーカー各位、審査を支障なくサポートしてくれたビア・ディレクターのみなさん、そして長時間にわたり公平かつ冷静に審査に集中してくれたジャッジとオブザーバーのみなさんに、心から感謝の辞を捧げたい。


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