インターナショナル・ビアコンペティション 2010 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション
審査委員長 田村 功

 「インターナショナル・ビール・コンペティション2010」の審査は、8月28日午前9時45分より東京の恵比寿ガーデンプレイス「ザ・ガーデンルーム」で行われた。今回は、55社から145銘柄のビールおよび発泡酒が参加した。

 出品数の多かったビアスタイルについては、ここ数年同じような傾向にある。すなわち、ヘーフェヴァイツェン、ジャーマン・ピルスナー、ケルシュ、アルトの四種。相変わらずドイツ発祥のトラディショナルなビールがエントリーの主役を占めているが、今年はこのほかにフルーツ/フイールド・ビールが台頭してきた。数のうえではボトル部門・ケグ部門あわせてヘーフェ・ブァイツェンが最多数を占め、フルーツ/フイールド・ビールはそれに続く勢いを見せた。フルーツ/フイールド・ビールがここまで増えたのはベルギー・フルーツビールの人気に刺激されたこともあろうが、なによりもクラフトビールの消費者がフルーツのもたらす華麗な香りに魅せられ、それを楽しむようになったことと無縁ではあるまい。これからも多彩な銘柄が登場してくるものと期待される。

 前述のドイツ系4スタイルについては、全体的にみてアロマの造り込み、風味の調和、苦味と甘味のバランス、アフターテイストともに国際水準に達しており、入賞ビールを決めるのに至難をきわめた。入賞できたビールとそれを逃したビールの差は本当に紙一重であった。また、フルーツ/フイールド・ビールには、レモン、グレープフルーツ、バレンシアオレンジ、ブルーベリー、アプリコット、シシリアンルージュトマトなど、バラエティーに富んだ銘柄がエントリーされた。そうした中で、酸味をほのかに効かせでフルーツの香りを上品に醸し出しながら苦みと甘みのバランスをきれいに整えたものが入賞の栄誉に輝いた。

 エントリーの数が少ないカテゴリーにも印象に残ったものが多々あった。その一つはベルジャン・ホワイトである。審査員が口を揃えて、その品質の素晴しさを称えた。いずれもきわめて完成度が高く、そのままベルギーに持ち込んでも五分の勝負ができよう。コリアンダーやオレンジピール等のスパイス香が、ビール本来のホップとモルトの風味と綺麗に融合し、何杯でも楽しめる出来映えのものが揃っていた。

 ここ数年、当コンペティションでは目立った存在を呈しなかった英国系エールだが、今年は久々に審査員を唸らせる出来映えのビールに出会うことができた。イングリッシュ・ブラウンエールである。このスタイルの美味しさの基本は「穏やかさ」にある。ホップの個性は決して表に出ず、ロースト麦芽の上品な風味が勝負どころだ。中庸で自己主張することはなかなかむずかしい。だが、今回の入賞ビールは美事この標的を射抜いていた。今年の特筆すべき成果のひとつと言えよう。このような上質のエールが広く市場に流通することにより、消費者は英国系列のビールの魅力、さらにはビールと料理のマリアージュに目覚めることになると予想される。

 同じく英国系のビールであるロブスト・ポーターも絶品揃いであった。スタイル条件をきちんと遵守しながら、最後は消費者に最高のドリンカビリティーを与える作品となっていた。ミディアムを維持したボディから、ロースト麦芽の豊かなフレーバーが立ち上がり、飲む者を魅了する。このような逸品が多くの消費者と出会うことによって、今日の地ビールの盛り上がりはさらに堅実なものとなるであろう。

 そのほかの所感として、今回はいくつかのカテゴリーで、明らかにスタイル違背と断じられる出品ビールがあった。ドリンカビリティーやバランスの観点からは、高い評価を受けたものも決して少なくなかっただけに、大変惜しまれる。醸造者におかれては、カテゴリー選定に慎重な考慮が求められるところである。

 最後に、ビールをご出品いただいたビールメーカーならびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げる。また、ボランティアでビールの審査に参加してくださったブルーワーやジャッジの皆さん、準備・進行・管理にあたってくださったディレクターの方々には厚く感謝の意を表したい。

以上

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